裁判で地方自治体首長による公金支出が違法とされた後、議会が首長への賠償請求を放棄する議決をするのは許されるのか。
その是非が争われた住民訴訟の上告審判決があった。最高裁は5件中4件を差し戻した。
最高裁は「議決は議会の裁量権に基本的に委ねられている」との考えを示した。一方で、「裁量権の範囲の逸脱や乱用が認められれば、議決は違法で無効」とも述べた。議会が無批判に違法な支出に目をつぶる議決をするのは許されない。そう警鐘を鳴らしたと受け止めるべきだ。
争われたのは、神戸市と大阪府大東市の公金支出をめぐる訴訟だ。
神戸市の補助金をめぐる住民訴訟の経緯はこうだ。
市が約20の外郭団体に派遣した市職員の給与に補助金を支出した。市民がその違法性を訴え、市長に約79億円を返還させるよう市を相手に訴えた。「市は職員を外郭団体に天下りさせ、補助金で高給を維持している」という主張だった。
神戸地裁は08年、市長と外郭団体に48億円を請求するよう市に命じた。ところが、控訴審に入った09年、市は「市長個人や団体が支払える金額ではない」として、請求権放棄を議会に提案し、可決されたのだ。
同年11月の大阪高裁判決は「議決は市の違法行為を放置するに等しい。住民訴訟制度を無にする」と厳しく指摘し、議決を認めず、請求すべき額も55億円に増やした。
だが、この公金支出をめぐる別訴訟では、大阪高裁が議決の有効性を認め、判断が割れていた。
大東市では、市が非常勤職員に支払った約270万円の退職金が問題になった。1審判決は「条例に定めがない」として違法と認定。判決後、議会が請求権放棄の議決をし、大阪高裁はその有効性を認めた。
実は、こうした請求権放棄の議決は全国で相次いでいる。住民訴訟の勝訴を帳消しにする行為の背景には、02年の地方自治法改正がある。
改正前は首長に訴訟を起こせたが、負担が大きいとの首長側の不満を受け、首長に返還を求めるよう自治体を訴える形に変わったのである。
法改正では、税金を使って強力な弁護団を組む自治体と闘う住民側が不利になると心配された。ふたを開ければ、行政をチェックすべき議会が首長となれあい、訴訟制度そのものを骨抜きにした。
最高裁判決は、議決の趣旨など総合的に事情を考慮して司法判断すべしというものだ。一定の歯止めにはなるが、結論が住民不利に傾けば、法改正を必要とする声も出てくる。議会は判決の趣旨をかみしめ、本来の役割を果たしてもらいたい。
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